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なぜ構造改革が需要創出につながるのだろうか。 それは構造改革が人々の潜在需要を顕在化させる役割を果たすからである。
例えば高齢者介護を例にとってみよう。 日本では現在、高齢化が急速に進んでおり、介護を必要とする高齢者が増えているが、施設の整備が追い付かないため、多くの要介護老人が家庭で家族の介護を受けている。
家族介護は家族に大きな負担がかかる。 多くの家庭では、要介護状態の高齢者の施設での介護を望んでいるが、施設の数や受け入れ規模が不足しているため、多くの人々は施設介護のサービスを受けることができない。
施設の供給が需要の増大に追い付かない大きな理由は、大部分の施設が政府の手厚い補助を受けて建設され、運営されているからである。 上述のように財政上の厳しい制約の下では、そうした補助金の財源がますます限られてくるので、需要の増大に見合うほどには供給を増やせないのである。
補助金を受けられるのは、社会福祉法人や医療法人などの特殊法人であり、一般の民間事業者はそうした補助金を受けられない。 こうした閉塞状況を打開する有力な方策は、補助金に依存しない民間の事業者が自由に施設をつくってケアサービスを提供できるようにすることだ。
例えば、三OOないし五OO世帯ごとに一軒、つまりス−プの冷めない距離に一軒ずつ、そのような民間事業者が経営する施設ができたらどうだろうか。 要介護老人を抱える多くの世帯は、こうした施設にケアを頼むようになるだろう。
つまり、それまで潜在的でしかなかった施設の世話になるという人々の潜在需要が、実際に施設ができることで顕在化するのである。 これが需要創出型の構造改革である。

あえて構造改革というのは、民間経営のこのような施設をつくることは、現実には多くの規制や既得権者の抵抗などがあって、かなり困難な仕事だ。 いまこそ需要創出型の構造改革をからである。
民間事業者がこのような施設を自由につくり、多様なサービスを提供できるようにするためには、障害となる規制を改革し、既得権を排除して、民間参入をより容易にするための条件整備が必要であり、そのためにはかなりのねばり強い作業が要請される。 そうした改革の強力な作業があってはじめて民間事業者が活躍しやすくなり、彼らの提供するサービスを,それを待ち望んでいた人々が購買できるようになる。
そうした構造改革の努力によってはじめて人々の潜在需要が顕在化する。 つまり、構造改革によって需要が創出されるのである。
これが需要創出型の構造改革である。 この例は、実際には「安心ハウス」という形で普及の努力が行われており、その詳細は第2章に述べられている。
専門家がケアするそのような施設に入って、老人本人も安心できるし、家族も負担が減って、仕事も休みもでき、生活が充実しかっ楽になる。 民間経営の施設なので、公立や社会福祉法人の施設のように多額の予算や補助金がかかることがなく、国や地方の財政をこれ以上悪化させることがない。
なによりも、ケインズ型の財政・金融政策による景気刺激ができない中でも、こうした構造改革によって人々が待ち望んでいたサービスが民間事業者によって提供されれば、多くの人々がそのサービスを購入するという意味で、ケインズ政策に代わる構造的な需要創出の戦略になるのである。 以上は、高齢者ケアの例だが、構造改草によって人々の潜在需要が顕在化する、あるいはウォンツがニ−ズとなって発現する分野は数多い。
例えば、子育て支援、健康づくり支援、医療、社会人教育、住宅流通、生活者の足となる地域交通、観光、リ−ガルサービス、環境サービス等々、多くのサービスがある。 これらの多くは、人々の生活に密着したサービスであり、それらは「生活産業」と総称できるかもしれない。
立ち遅れた生活者へのサービス提供これらの生活者へのサービス提供は、日本は先進国としては著しく立ち遅れていると言わざるを得ない。 無論、上記のような分野では各々それなりのサービスはあるが、多くの場合、多様性が乏しく選択の幅が少ない。
高齢者ケアの例でみたように、人々の潜在需要に比べて供給量が著しく不足している場合が多い。 子育て支援サービスについてみると、日本には約二万三OOOカ所の保育所があり、一八O万人ほどの幼児、児童の保育サービスを提供しているが、大都市での供給量は需要に対して圧倒的に足りない。

保育時聞が夕方六時で修了する保育所が大半であり、働いている若い家族にとって極めて使い勝手が悪い。 しかも小学校低学年では放課後のケアが著しく不足しており、子育て環境は危険で劣悪である。
いまこそ需要創出型の構造改革を健康づくり支援についてみると、高齢化の進む日本の社会で、健康は国民の最大の関心事であるにもかかわらず、健康づくりに関する正しい情報、助言サービスなどが多くの国民にとって極めて入手し難いのが現状である。 これは予防、健康増進、快適医学などへの取り組みの遅れ、医師法、薬事法、診療報酬などの制度的障害、既得権勢力の抵抗など多くの要因が複合的に絡み合った結果だが、健康に関心の深い多くの国民が適切な情報や助言、サービスを得やすい国をつくるために、多くの改革を強力に進める必要がある。
医療については、国民皆保険制の下でユニバーサルアクセスが保障されているという長所はあるが、先進成熟固として人々がウォンツにふさわしいサービスを幅広い選択肢の中から選べるという多様性に欠けている。 医療の情報化も遅れている。
言い換えれば医療サービスの量は潤沢だが、質の面で多くの問題が残されているということである。 社会人教育への需要は、高齢化と社会や産業の知識集約化の下で、大きく高まっているが、画一的で硬直的な学校行政のために、多くの国民の多様なウォンツに応える社会人教育サービスの編成が阻害されている。
住宅については既存住宅の流通市場が欠如しているために、二Oないし三O年たつと、多くの住宅は市場価値がゼロになる。 多くの家計にとって最大の資産である住宅が無価値になるこうした社会では、人々は将来の生活設計への展望が持てず、不安が募って消費が萎縮する。

住宅という資産が減価しない社会をつくることが構造改革の最大の課題である。 地域交通については、道路運送法の下で、パス、タクシー、ハイヤーなどの業態が規定されているが、高齢化が進み、女性の就労が進む中で、社会の新しい需要が顕在化しつつある。
例えば、車の運転ができなくなった高齢者や一人暮らしの高齢者の生活ニ1ズに応えるきめ細かい移動手段、就労中の母親がケアできない幼児から低学年児童までの子供の移動手段などの新しい社会的需要である。 これまでの地域交通の仕組みではこれらの需要を適切に満たすことは困難である。
これらは、高齢化、少子化、成熟化しつつある日本の社会の新しい生活サービス需要のいくつかの例示にすぎない。 社会の変化に伴って、このような生活サービスへの潜在需要は様々な分野で膨大に蓄積しつつあると思われる。
人々のこうした潜在需要に応えていくにはどうしたらよいのだろうか。 かつての高度経済成長時代であれば、毎年増える税収を使って特殊法人に補助金を出し、必要なサービスを提供させればよかっただろう。

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